主な取り組みについて

京都府立医科大学小児心臓血管外科では、手術成績向上、患者様のQOL改善のために様々な取り組みを行っています。

1. Bulging sinus及びePTFE弁付パッチ(または導管)による右室流出路再建術

 ファロー四徴症根治手術、肺動脈閉鎖症に対するラステリ手術、ロス手術など、右室流出路再建手技(右心室から肺動脈への出口を作成する手術)を必要とする患者様に対して、当院で独自に開発したBulging sinus及びePTFE弁付パッチ(または導管)を積極的に応用しています。このBulging sinus及びePTFE弁付パッチ(導管)は、生体に優しい素材であるePTFE(ゴアテックス®)を正常の肺動脈弁の形態に近い形に形成してあるため、良好な肺動脈弁機能を長期間保つ事が期待されています。学会でも高い評価を受けており、福岡こども病院、東京大学、東京女子医科大学、岡山大学をはじめとする全国の50を超える主要施設に技術供与を行っています。
(Miyazaki T, Yamagishi M, Maeda Y et al. Long-term outcomes of expanded polytetrafluoroethylene conduits with bulging sinuses and a fan-shaped valve in right ventricular outflow tract reconstruction. J thorac cardiovasc surg 2018;155(6):2567-2576)

2. 主要大動脈肺動脈側副血行路 (MAPCA) に対する独自の治療戦略

 主要大動脈肺動脈側副血行路(MAPCA)は非常に特殊、かつ重症の疾患であり治療方針も施設により様々です。われわれは、1歳前後に自己心膜ロール(心臓を包んでいる膜を採取し、ロール状に縫って作成したもの)を用いて中心肺動脈を再建し、その中心肺動脈に全てのMAPCAを統合化する方法をとっています。過度な侵襲を避けるため、心内修復は行いません(心室中隔欠損を閉鎖しない)。更に腹部にシリコンチューブを利用して作成したバイオチューブを埋め込む方法を採用しています。統合化手術後1年を目安に根治手術を行います。MAPCAは非常に繊細な血管で吻合部狭窄をきたす可能性が高いため、根治手術時にバイオチューブを用いて積極的に拡大形成を行っています。この治療戦略で低い肺動脈圧を実現することができ、患者様のQOL改善も期待できると考えています。
(Kato N, Yamagishi M, Kanda K et al. First Successful Clinical Application of the In Vivo Tissue-Engineered Autologous Vascular Graft. Ann thorac surg 2016;102(4):1387-90)

3. エタノール処理自己心膜による弁形成術、および肺動脈拡大形成術

 小児の心臓手術では患者様の成長の事を考慮し、可能な限り自己の組織を用いて手術を行うことが求められます。そこで一般的な補填材料として使用されるのが自己心膜(心臓を包む膜)です。われわれは手術中に採取した自己心膜にエタノールを用いた特殊な処置によって脱水処理を行い、強度をあげたものを弁形成や肺動脈の拡大形成に用いて良好な結果を得ています。特に、総動脈管症における総動脈管弁形成術や、ノーウッド手術およびグレン・フォンタン手術時の肺動脈拡大形成術などに有用と考えています。

4. ロス手術の積極的導入

 先天性の大動脈弁狭窄症・大動脈弁閉鎖不全症の患者様の場合、以前は人工弁による置換術が行われてきました。しかし、手術後に患者様は成長するのに対して人工弁は大きくならないため、再手術が必発でした。当院では患者様本人の肺動脈弁(術後発育する)を用いて大動脈弁置換術を行うロス手術を積極的に導入し、良好な成績を得ています。
(Yamagishi M, et al. Pulmonary reconstruction in the Ross procedure: Combined autologous aortic and polytetrafluoroethylene valve. J Thorac Cardiovasc Surg 1998;116:1076-1077)

5. 異物を用いない心室中隔欠損閉鎖術

 心室中隔欠損症を治療する際、通常は人工布(ゴアテックス®、ダクロン®など)を用いて閉鎖しますが、当院では患者様本人の組織である自己心房中隔壁を用いて心室中隔欠損を閉鎖する手術法を開発しました。自己組織を用いることにより、抗感染性・抗溶血性が期待されます。
(Yamagishi M, et al. Atrial septum around the fossa ovalis: an ideal patch for the ventricular septal defect. J Thorac Cardiovasc Surg 2002;123:999-1000)

6. 小切開による心臓手術の奨励

 当院では、軽症の患者様に対して術後の整容性を考慮し、可能な限り皮膚切開を小さくする努力をしています。特に、心房中隔欠損症を治療する際、通常行われる胸骨正中切開(胸の中央に手術創が残る)を避けるため、右側方小切開(6-10cm程度)による心房中隔欠損閉鎖術を希望に応じて施行しています。通常の胸骨正中切開に比べて、小さく目立たない(特に女性の場合は下着に隠れるようになります)手術創になります。

7. 無輸血手術の促進

 小児の心臓手術では、患者様の体格(体重)の問題や術前の貧血などから、どうしても輸血が必要となる場合が多いのですが、当院では可能な限り輸血を行わず手術を行うよう努力しています。無輸血手術促進のため、術前の自己血貯血、人工心肺の低充填量化などを行っています。更に可能であれば、アルブミン製剤やフィブリン糊製剤といった特定生物由来製品も使用しない完全無輸血手術を目標としています。

8. 複雑心奇形に対する新しい手術手技の開発

複雑心奇形に対する手術は日夜進歩を遂げており、当院でも患者様の生命予後およびQOLを改善するために、新しい手術手技を開発し積極的に導入しています。当院で開発した主な手術手技には下記のようなものがあります。

  1. 心臓型総肺静脈還流異常症に対する左房後壁フラップ法
    (Yamagishi M, et al. Intra-atrial rerouting by transference of the posterior left atrial wall for cardiac-type total anomalous pulmonary venous return. J Thorac Cardiovasc Surg 2002;123:996-9.)

  2. 完全大血管転位症に対する、Bay window手技による冠動脈移植法
    (Yamagishi M, et al. “Bay window” technique for the arterial switch operation of the transposition of the great arteries with complex coronary arteries. Ann Thorac Surg 2003;75:1769-73.)

  3. 大血管転位症・肺動脈弁狭窄症に対する、half-turned truncal switch手術
    (Yamagishi M, et al. Half-turned truncal switch operation for complete transposition of the great arteries with ventricular septal defect and pulmonary stenosis. J Thorac Cardiovasc Surg 2003;125:966-8.)

  4. 部分肺静脈還流異常症に対するDouble decker technique法
    (Yamagishi M, et al. Repair of partial anomalous pulmonary venous connection with a minimal atriotomy. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg 2000;48:370-2.)

  5. Ebstein奇形に対するOblique plication手術
    (Yamagishi M, et al. Oblique plication for repair of the atrialized ventricle and tricuspid incompetence of Ebstein’s anomaly. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg 2000;48:115-7.)

  6. 大動脈弁狭窄症を伴う大動脈離断・心室中隔欠損症に対する肺動脈前方転位・大動脈後方転位再建手術
    (Yamagishi M, et al. A new surgical technique for one-stage repair of interrupted aortic arch with valvular aortic stenosis. J Thorac Cardiovasc Surg 2001;122:392-3.)

  7. Williams症候群に伴う頚部動脈狭窄に対する頚部分枝一本化法
    (Yamada Y, et al. Unifocalization of the neck arteries combined with aortic arch replacement for Williams syndrome. J Thorac Cardiovasc Surg 2002;123:579-80.)

  8. 肺動脈発育不全を伴う肺動脈閉鎖症に対する姑息的右室流出路再建法(肺動脈一本化を併施)
    (Shinkawa T, et al. One-stage unifocalization and palliative right ventricular outflow tract reconstruction. Ann Thorac Surg 2005;79:1044-47.)

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