京都府立医科大学 外科学教室 心臓血管・小児心臓血管外科学部門
成人心臓血管外科グループ(臨牀での主な取り組み)

成人心臓血管外科グループ(臨牀での主な取り組み)

成人心臓血管外科 主な取り組みについて

冠動脈疾患 -Coronary Artery Surgery –

人工心肺非使用・心拍動下バイパス術(Off-PUMP CABG)

従来、冠動脈バイパスは人工心肺を使用して、心臓を停止して行っていましたが、2000年頃から人工心肺を使用せず、心臓を拍動させたまま吻合を行うオフポンプ管動脈バイパス術(Off-Pump CABG)が行われるようになってきました。この方法では人工心肺を使用することなく、心停止も行わないため、患者さんの負担が少なくなる利点があります。当科ではいち早く、本法を取り入れ、現在までに1500名以上の患者様にこの手術を施行してきました。我々の検討ではOff-Pump CABGにより手術死亡、合併症率の低下が見られ良好な成績が得られることが分かっています。

小切開冠動脈バイパス術(MICS CABG)

通常の多枝バイパス術では、胸部正中に約25cmの皮膚切開を加え、さらに胸骨を縦切開して心臓に到達します。これに対し、左前下降枝(LAD)へ一カ所だけバイパスすればよい症例には、左前胸壁に約5cmの皮膚切開を加えるだけで左内胸動脈(LITA)をLADに吻合することが可能です。この方法では、美容上も優れているだけでなく、手術侵襲も少なくなります。多枝病変を持つ全身状態不良症例でも本法とPCIを組み合わせることにより、治療の安全性と効果を高めることが可能です。

動脈グラフトの使用

我々は、最も開存率が良好であるとされる有茎の内胸動脈を、80%以上のバイパス症例において左右とも使用しています(両側内胸動脈使用)。また、超音波メスを用いたskeletonization法(伴走する2本の静脈を温存し、動脈のみを採取する方法)によって、通常よりも長い内胸動脈を採取できるため、現在では左冠動脈のほぼ全領域の血行再建をこの有茎の両側内胸動脈だけで行うことができています。さらに、静脈よりも長期開存性に優れていると考えられている右胃大網動脈も積極的に使用しています。

左心室形成術(ELIET法)

重篤な心筋梗塞により左心室の筋肉の動きが部分的に失われてしまう事があります。そのような部分を手術により切除縫合する(左心室形成術)ことにより、心臓の動きをより生理的な状態に回復する事が出来ます。当科での独自の方法 ELIET (Endocardial linear infarct exclusion technique)法を用いて、良好な成績を収めています。また、陳旧性心筋梗塞による機能的僧帽弁閉鎖不全症に対しては、乳頭筋吊り上げ法等を弁輪形成術に弊施して、より耐久性の高い形成術を行っています。

心臓弁膜症手術 -Surgery for Valvular Heart Disease-

僧帽弁疾患 -Mitral Valve Disease-

僧帽弁閉鎖不全症に対しては僧帽弁形成術を第一選択として手術を行っています。僧帽弁形成術は自己組織を温存できるため、人工弁置換術よりも優れた長期成績を得ることが出来るとされています。弁の切除縫合、人工腱索を使用した再建、自己心膜を使用した再建、弁輪形成リング、バンドの使用等を組み合わせて形成を行います。また、単に閉鎖不全を改善するだけでなく、機能的により優れた弁(運動負荷時に十分に対応できる)に形成できるよう取り組んでおります。
解剖学的に適切な症例には右開胸小切開での低侵襲手術を積極的に取り入れています。

大動脈弁疾患 -Aortic Valve Disease-

大動脈弁狭窄症 -Aortic Stenosis-

大動脈弁狭窄症の治療に関しては、循環器内科との合同カンファレンス(ハートチームカンファレンス)を経て、方針を決定しております。原則として80歳以下の合併症のない方は人工心肺を使用した開胸での大動脈弁置換術を選択し、80歳以上の方、合併症の多い方には経カテーテル大動脈弁置換術 (T A V R)を選択しています。
当院ではカテーテル治療開始後、大動脈弁狭窄症の患者様に多数来院いただいており大動脈弁狭窄症センターとして、患者様お一人一人にベストな治療を提供させていただいております。

大動脈弁閉鎖不全症 -Aortic Valve Insufficiency-

大動脈弁閉鎖不全症に対しては、標準的な人工弁置換術のみならず自己弁温存大動脈基部置換術等をはじめとした弁形成術を可能な限り行っています。

大動脈手術 -Aortic and Endovascular Surgery-

現在の大動脈の治療は従来の開胸、開腹による人工血管置換術と大動脈ステントグラフト治療(低侵襲血管内治療)の2つの治療を上手に選択しながら行うことが一般的になっています。開胸・開腹が必要な部位に動脈瘤のある方や若年の方は、従来の方法での治療をご提案させていただいておりますが、より低侵襲(体の負担が少ない)な治療法を当科では日々模索しております。

当グループでは2001年から大動脈ステントグラフト治療をいち早く導入し、多くのハイリスク患者様含め、幅広い年齢層の患者様の動脈瘤治療を行ってまいりました。現在も京都府全域、近畿の各地より多くの患者様に来ていただいております。

大動脈ステントグラフト治療
(EVAR/TEVAR: Endovascular aortic repair)

原則として、75歳以上、合併症の多い(過去に開胸・開腹手術をされている、肺疾患)方を適応としております。

当科では患者様一人ひとりに合わせたオーダーメイド的な大動脈ステントグラフト治療を理想としており、合併症を低減しつつも長期的に効果が保たれるような治療プランを立てております。また脳梗塞、脊髄梗塞の工夫も積極的に行っております。

足の付け根(鼠径部)の4−5cmほどの小さい傷から治療を行います。

2021年からは経皮的止血システム(Perclose Proglide)が保険償還となり、経皮的アプローチも積極的に導入しております。導入後1年は傷口がほとんどない状態で退院される方が6−7割ほどになっております。

当科で行った治療を一部ご紹介いたします。

京都府立医大心臓血管外科には複数のステントグラフト治療の実施医・指導医が在籍しており、強固なチームワークとフットワークの軽さも我々の強みです。緊急の手術が必要な場合でも、定時手術とほぼ変わらないクオリティーを保っております。

閉塞性動脈硬化症

閉塞性疾患の血行再建では出来るだけ解剖学的再建に努めています。血栓内膜摘除術と人工血管をコンポジットグラフトして組み合わせた変法を活用して自己血管組織を温存し、股関節部の屈曲制限回避や鼠径部感染症への抵抗性を増すための手技を試みています。

更に下肢末梢の疾患についても自家静脈グラフトを用いた遠位膝窩~分枝バイパス手術を行っていますが、出来る限り侵襲を減らすために広範囲の手術を一気に行うことは避ける様にしています。現実には中枢側から順に治療していくことによりかなりの満足度が得られるからです。

大静脈疾患

その他、横隔膜下の血管手術としては他科(消化器外科・泌尿器科・産婦人科など)との合同手術がありますが、これらの中では腎原発の下大静脈内腫瘍塞栓に対する人工心肺装置を用いた手術が大きなものとなります。年齢・リスク・腫瘍の進展・予想される予後など個々の症例について泌尿器科と充分な討議の上、一人一人に合わせた補助手段の選択により手術死亡症例はありません。